金属や半導体材料を電極として、陽極酸化処理を行うことで材料表面をナノポーラス状に加工することができます。私たちは、シリコン(Si)やシリコンカーバイド(SiC)、ダイヤモンドなどの半導体表面を陽極酸化によりナノポーラス化し、それらの材料をテンプレート材料や電極として利用する応用研究を行っています。
SiCやダイヤモンドは物理的にも化学的にも安定な材料であるため、表面の加工は難しいことが知られています。私たちは、イオン照射技術や赤外自由電子レーザー照射技術を利用し、これらの半導体材料の化学溶解させたい箇所へ点欠陥や積層欠陥を位置選択的に生成することによって、陽極酸化による表面加工を実現しました。
参考文献
・ The Journal of Physical Chemistry C 2020, 124, 11032-11039.
・ The Journal of Physical Chemistry Letters 2022, 13, 2956-2962.
・ Electrochemistry Communications 2023, 149, 107473.
2. 陽極酸化ポーラスシリコンを用いた金属ナノ材料創製
陽極酸化処理で作製したSiのナノポアは電気化学反応のテンプレート(鋳型)として利用することができ、金属ナノ粒子やナノロッドなどの微細構造形成が可能です。しかし、狭小空間であるナノポアでは水溶液中の金属イオンの拡散性が著しく低下し、多くの場合、ポアを充填するよう理想的に還元反応を進行させることは大変困難です。
私たちは、表面とイオンの水和相互作用を積極的に設計し、ナノポアでの金属イオンの移動を劇的に高速化する方法を開拓しました。この方法により、狭小空間でも原料となる金属イオンが枯渇することなく潤沢に供給され、金属ナノ粒子が短時間で大量に作製できることを示しました。
参考文献
・ Chemical Physics Letters 2012, 542, 99-105.
・ The Journal of Physical Chemistry C 2015, 119, 19105-19116.
・ The Journal of Physical Chemistry C 2016, 120, 24112-24120.
3. 炭素新材料を用いた半導体の切り出し加工
Siなどの半導体はウエハを切り出し、デバイス作製へ利用します。このとき、ダイシングと呼ばれる方法により切り出すことが一般的です。ダイシングでは切り屑が発生し、切り出しサイズが小さくなればなるほど切り屑として無駄になるSiが多く発生します。
私たちは、炭素触媒を用いた、化学溶解による切り屑がほとんど発生しない化学ダイシング法の開拓を進めています。一般に炭素は触媒性能に乏しく、Siの化学ダイシングの触媒としては期待できません。そこで、共同研究者らと新炭素材料であるグラフェンナノリボンを触媒とする化学ダイシングに取り組み、現時点において世界で最も活性の高い化学ダイシング用炭素触媒の設計に成功しました。
参考文献
・ Nature Communications 2024, 15, 5972.
・ The Journal of Physical Chemistry C 2025, 129, 4086-4096.
4. 湿式法による多元系合金薄膜創製
ハイエントロピー合金はバルク材料の研究から優れた強度・靭性バランスを示すことが知られており、この特性は材料の耐摩耗性の被膜としても大変興味深いものです。しかし、耐摩耗性を必要とする箇所は3次元的に複雑な表面をもつ場合がほとんどであり、そのような材料に対して均一にハイエントロピー合金を成膜する方法はこれまで報告されていませんでした。電析は複雑形状に対して均一に成膜できる数少ない方法の一つですが、熱力学的な観点と速度論的観点からハイエントロピー合金の電析は難しいと考えられていました。
私たちは、エマルションのようなミクロ相分離する液体を電解液に用いることで現行の硬質クロムめっきを超える耐摩耗性と耐食性をもつCr-Co-Niミディアムエントロピー合金のコーティングを可能にしました。現在は、構成元素と組成を精密に制御することで更に優れた耐摩耗性の設計を目指した研究を進めています。また、比較的安価な3d遷移金属からなる多元系合金の触媒開発にも挑戦しています。
参考文献
・ Electrochemistry Communications 2021, 128, 107057.
・ The Journal of Physical Chemistry C 2023, 127, 4696-4703.
・ Advanced Functional Materials 2025, 35, 2418621.
5. 金属・半導体ナノヘリカル材料の微細加工
ナノスケールでらせん状(ヘリカル)構造をもつ材料は、鏡像対称物が互いに重なり合うことはありません。このような性質はキラリティと呼ばれ、ナノヘリカル材料はキラル材料の一つといえます。金属や半導体のナノヘリカル材料は円偏光制御のプラットフォームとして期待されますが、極めて複雑なヘリカル構造をナノスケールで精度よく大量に作製する方法は殆ど報告されていませんでした。
私たちは、湿式処理による金属の還元析出において、自己組織化プロセスを精密に設計し、金属のナノヘリカル構造や半導体ウエハへのナノヘリカル孔の作製を可能にしました。このような従来にないキラルナノ材料創製に関わる研究を通じて、新しいキラル材料工学の学理開拓を目指しています。
参考文献
・ ACS Applied Materials & Interfaces 2019, 11, 48604-48611.
・ Electrochemistry Communications 2020, 114, 106714.
・ Nano Letters 2023, 23, 462-468.